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人間の行動の大半には何らかのデザインが絡んでいるので、わたしたち
は、デザインに何がついてまわるかを本能的に知っている。九時になら
ないと放映しない番組は八時には見られない、と承知している。テレビ
を二台並べるか、手持ちのテレビに子画面表示の機能がついているかし
ないかぎり、いちどに二つの番組を見られないのを知っている。たとえ
その技術的な能力をもっていても、本当の意味で二本のミステリー映画
を同時に見て、両方の筋書きをきちんと把握しつづけることはできない
とわかっている。選択の必要性と、それを避けようとするのにかかる代
価を理解している。音量を、眠っている赤ちゃんに聞こえないほど小さ
く、しかも自分たちが耳をそばだてたり、肝心のせりふを聞きのがした
りせず番組を聞いていられる程度に大きくすることはできないと知って
いる。テレビを見るというような、ごくありふれた行為の本質を理解し
ているからこそ、わたしたちはデザインの本質がわかり、完璧を達成す
ることの難しさがわかる。完璧なものが何もないというのは、デザイン
に対する批判ではなく、その原因が人間にあると認めることにほかなら
ない。