別名「ボビット」とも呼ばれる、インドネシアの遺跡から発見された異例
の古人類化石の発掘譚。これまでの人類進化の学説上の謎を解く鍵となる
ような大発見であることを解説した上で、発掘にまつわる背景と、研究遂
行上での政治的・学説的な対立構造によるさまざまな葛藤を描いている。
発見された人骨は現生人類からかなり遠縁の旧人類と見られ、しかも、現
生人類とくらべると著しく小さな体格や、小さな脳頭蓋の面積などの面か
らも、新たな人類種であると分類したものとのこと。
著者はオーストラリア側から、オーストラリア大陸への人類の移住の謎と
いうResearch questionをいだいてインドネシアでの発掘調査を進め、そ
こににふってわいた、さらに大きな研究課題を提示する大発見の模様を、
それに関わる努力とともに伝えている。
後半は、インドネシア・オーストラリア間の国際研究プロジェクトの政治
的主導権争いをめぐる話題が中心になっており、大規模なプロジェクトに
大発見がからんで、かなり難しいことになっている模様をつたえる。
長年インドネシアでの人類学研究をおこなってきた監訳者による解説が、
第三者的視点から解説していて、良い感じ。
また、随所で大学院生を含む共同研究者の仕事に触れるさまは、大きな研
究プロジェクトの研究代表者としての責任感を感じさせ、印象的だった。