大岡昇平による、太平洋戦争中のレイテ島における日本軍と米軍との戦い
を描いた戦記小説。戦死した兵士たちへの鎮魂歌とするかのように、レイ
テ島での日本軍全滅に至るまでの経過を細かく描いている。
レイテ島から終戦にいたる日米双方の戦略の対比とともに、レイト島内に
おける個別の局地戦闘まで、ミクロとマクロの視点両者をよく盛り込んで
あって、興味深く読んだ。
とくに、個人的には、祖父の兄が海軍士官として南方戦線の輸送船で戦死
したと聞いたことがあるため、日本軍の増援作戦での輸送の実態の説明は
特に興味深く読んだ。
結論から言えばレイテ島での日本陸海軍は9割以上が戦死し、一部の転身
部隊数百名をのぞいてはおおむね全滅となり、帰れずに補給も尽きた島で
餓死するしかなかった戦死者が多数いたという凄惨な経過を、当時の米国
公刊戦史と日本に残された公文書、数少ない生還者の手記、残された無線・
電報伝令等の記録をもとに、一部隊ごとの経過を明らかにしている。特に
後半の潰滅状態に近い敗走中の記述は圧巻で、両軍の体質とともに、個々
の部隊における人間と狂気じみた戦争のありようが伝わり、ただただ悲し
さとむなしさをかきたてられるような思いに駆られた。
また随所で、指揮官や士官たちの無責任さととも、自己弁護めいた記録の
微妙な食い違いといった点に言及している著者の史料調査の観点からの指
摘も興味深い。
ただ、本書は戦記スタイルによって書かれたものであるため、部隊もしく
は指揮官・参謀レベルの説明が主となっていて、個別の前線の兵士たちの
主観的説明を排したかたちになっているため、合わせて著者の他の著作も
見るべきかもしれない、、、とは思った。