フランスのジャーナリストである筆頭著者を中心に、ウィキペディアのも
つ側面を指摘する本。
ジャーナリスト養成校で教鞭を取る著者が、「Wikipedia無しでどうやっ
て調べてきたのですか?」と教え子に聞かれて衝撃を受けたとのまえがき
から始まる。これまでの先人たちの取材や蓄積が継承されなくなってしまっ
ているのではないかとの危機意識から、ウィキペディアと既存のメディア
との違いに焦点をあてつつ、様々な角度から、著者の教え子たちのレポー
トをもとに話題が展開する。
各章の話題の大半はフランスでの事例を元にしており、フランス語版ウィ
キペディアもしくは英語版ウィキペディアからの引用となっているが、そ
れを補うようにして加えられた木村氏による解説は日本語版ウィキペディ
アを対象としたものであり、とても分かりやすい。前半でのフランス人著
者らの筆致に比べるとかなり冷静で正確な記述となっており、日本語版ウィ
キペディアの実態によりよく迫る解説となっているように思う。
印象から言えば、フランス人著者らのウィキペディアへの態度は、かなり
批判的であり、悪く言えば、いかにも文化人めいた教条的な批判が主となっ
ており、あまりかみあっている印象を与えないのが難点であり、迫力に欠
ける部分が多々見られる。
この本の収穫は2点あり、一つは圧倒的な存在感を放つ木村氏による日本
語版ウィキペディアの解説であり、もう一方は、原著者らによる率直な危
機感の露呈だと思う。
なにより、木村氏の解説は、これまで誤解の多かった日本語版ウィキペディ
アの内実をよく表現しており、これまでに読んだウィキペディア関連の解
説の中でも、もっとも実態に迫る白眉の内容となっている。とくに、単な
るウィキペディアの機能面の解説ではなく、ウィキペディアの持つ自治的
空気の中でのコミュニティ活動の本質に迫っているし、内部から見た部分
とも良く整合するかなり正確な内容であることに正直言って驚いた。惜し
むらくは、全体の原著者らとのトーンとはまったく180度ことなる内容で
あり、もったいない、別の著作としても良いのでは、との感も覚えるほど
であった。