長年マーケティング活動および学問体系の構築にたずさわってきた著者が、
マーケティング学および実践の難しさを解説する本。
前半はマーケティング活動のなかで見られる不可逆性について触れ、消費
者はまだ見ぬサービスに対しては明確な価値軸を提供できないし、マーケ
ティング活動もそれにはアプローチできていないとの認識を示したうえで、
後半では、質的研究やエスノメソドロジーを含むような学際的な学問のあ
り方を考えるべきといった、「マーケティング学の脱構築」をキーワード
として、科学哲学まで踏み込むような議論を展開している。とくに「科学
はマーケティングか?」との章では、倒置的な問いをキーワードにして、
パラダイムとしての科学論を展開している。
また経営資源に対する日米の認識の違いとしてあげられた、「合理性の米
国」「現場でなんとかする日本」という対比も、とても面白い指摘だった。
もともと1980年代に出版されたもので古めかしい内容もあちこちにあるが、
マーケティングや消費者研究そのものは素人なので、解説書・入門書とし
て楽しく読めただけでなく、逆に分野違いだからか新しさを感じる面もい
くつかあった。
また内容的にも、CRESプロジェクト研究で取り組んでいるような、コンテ
クスト重視の研究という点でとても興味深く、深く関連しそうな部分も多
いので、最新の研究解説を追いかけて読むべきと強く思った。