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まさおのChangeLogメモ / 2007-10-14

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2007-10-14 Sun

* 第55回日本図書館情報学会・研究大会第二日目

昨日([2007-10-13])にひきつづき、面白い発表がいっぱいだったので、
手元のメモから再現:

・OPAC画面における視線計測:
http://ccs.tsurumi-u.ac.jp/seminar/docu/okada_lab/jslis55/abstracts.html#22
法学部生の被験者32名に3検索課題を遂行してもらった際の視線軌跡を分析。

今回の大会の中ではもっとも気になっていた石田さんの発表。
いま手元でやっている研究内容を一段進めたような内容なので、実験手法
および分析手法が大変参考になった。

あとで個人的にお話を聞いたかぎりでは、分析そのものが大変で、なかな
か思うような結果が出てこなかったとのこと。パフォーマンスとしての正
解率が25%というような質疑があったように、思ったような結果がなかな
か出てこなかったなど、まずはやってみたという段階の模様。
分析そのものも3課題のうち1課題分についてのみで、さらに2画面での模
様を分析したところまでにとどまっているようなので、今後に期待。

気になった点としては、検索タスクや学習効果の影響がどのくらい関わっ
ているのか、他の検索課題との比較など。

追加分析もこれからすこしずつ出てくるだろうから、今後の報告が楽しみ。

・ケータイ用OPACの利用意向調査:
http://ccs.tsurumi-u.ac.jp/seminar/docu/okada_lab/jslis55/abstracts.html#10
携帯電話向けOPACに対する学生の利用意向調査のアンケート結果の分析。

携帯検索エンジンの使用経験の差や文系・理系の別によって、利用意欲に
差が出ているなど、興味深い内容。今後のサービス提供に向けての基礎的
な調査結果として興味深い気はする。

気になったのは、個々人の日常的な利用傾向や、どういったキャンパス環
境で用いるのかといった傾向を同時に述べないと、うまく説明が付けられ
ないのではないかという点が気になり、一部質問で聞いてみたが、なかな
かうまくつたわらなかったようで、申し訳なく感じた。

・情報探索におけるプランニングの影響:
http://ccs.tsurumi-u.ac.jp/seminar/docu/okada_lab/jslis55/abstracts.html#15
寺井さんの発表。
94人と大規模な実環境での実験によって、貴重なデータが得られている。

探索のためのプランニングとして、探索課題の遂行前にあらかじめ、探索
に役立ちそうなキーワードを列挙したり、役立ちそうな情報源を列挙した
りする。プランニングの影響を調べた限りでは、ほとんど明確な差は出て
いない。しいていえば、新規キーワードの投入率で交互作用が出ているく
らいで、これ自体は興味深いものの、考察はけっこうややこしいことになっ
ている雰囲気。

ただ気になったのは、特に「情報源のプランニング」に対しては、プラン
の質を考慮する必要があるのではないかという気がして、学部学生による
Noviceのプランニングを使っても、結局意味はなく、ほとんど目に見える
ような成果につながらないのではないかという気はする。もう少し、きち
んとした(プロの)プランを使用した際にどのような結果が得られるのか
など、比較があると説得力が出そうかなという気はする。

・ILLログデータの分析:
http://ccs.tsurumi-u.ac.jp/seminar/docu/okada_lab/jslis55/abstracts.html#18
ILLログ分析研究の続編。
2006年度にNACSIS-ILLの依頼総件数が、初の減少に転じ、これは複写件数
の減少からきたもので、洋雑誌の包括契約の影響が顕著であるとの既存研
究の報告を踏襲する内容。
今回はミクロな部分まで分析するということで、館種毎・雑誌毎の経年変
化を見るという研究。

質疑では、そもそも「ILLは今後どうなっていくことが望ましいのか?」
といった、根源的な質問が出て、いろいろと盛り上がった。。。
(これは、発表のなかでILLが持つ互助的なシステムは、非包括契約のバッ
クファイルなどに対し、まだ機能している部分を残していることを確認し
たとの報告に対するもの)
個人的にも、本当に「機能」させつづけていくことが重要ではないのでは
ないかという気はしますが…。この辺はただ単に言葉使いの問題という気
もしてますが。

・NACSIS-CATにおける単館所蔵などの調査:
http://ccs.tsurumi-u.ac.jp/seminar/docu/okada_lab/jslis55/abstracts.html#30
単館所蔵、重複所蔵に、どのような館種・大学群が寄与しているのかとい
う調査。

CAT全体では39.8%が単館所蔵になっている。日本語書籍の割合は2000年以
降増加傾向にあり、45.8%程度を占める。

質疑では、大学の学生総数や学部数など、もう少し変数を増やして分析し
ていく必要があるのではという点の指摘があった。

□総会&学会賞授与式:

・BIBLIS for Web
公開促進費の応募に外れたので、今後の更新作業が困難に。
今後、説得のためにも、もう一桁多いアクセスが欲しい。
多くの利用を望む。

・学会賞
学会賞2名、奨励賞2名、学会貢献賞1名の計5名の表彰があった。

学会賞のうち一件は、谷口先生がこれまでの多くの業績(JASIST×6?,
JDoc.×1?)をまとめた学位請求論文としてまとめた成果に対して賞が授与
された。その受賞者による言葉としておっしゃった言葉がとても印象的だっ
たので、手元のメモから再現する:

「自分の研究は20年かかったが、まだまだ小さな足跡しか残せていない。
... 若い人たちにはこのような結果をかるがると乗り越えるような気概と
成果を期待したい。自分もできる限り、それにはりあっていきたいと思
う。」

積年の大きな研究成果を謙遜されながらも、力強く研究コミュニティに向
けて、さらなる前進を呼び掛け、さらに自分自身もそれに立ち向かってい
くという決意に、研究者としての自負と生きがい(まさに気概)を感じる
ことができた。なんだか鳥肌の立つ思いを感じたことだけ付記しておく。

□図書館情報学におけるEvidence based approach(シンポジウム):

・池内: 昨年度から運営しているEBAワークショップの概要紹介
・酒井: 欧米を中心としたEBMからEBLIPへの動きを紹介
・永田: 図書館経営におけるエビデンス
・寺井: 探索行動における実践の場でのエビデンスの収集
・市古: フォーカスグループインタビューによる利用者調査
・小島: エビデンスに基づく劣化資料調査

多士済々の顔ぶれでかなり面白い発表が続いたが、あまり私自身の中で
「エビデンス」概念を整理しきれていないため、消化不良をおこしてしまっ
た。研究と実践を結び付けるうえで、どのような調査報告が行われるべき
かというエビデンスを作り出すための活動と、エビデンスを活用するため
の手法とのどちらもが、まだ手つかずの状態で切り分けもうまくできてい
ないのではないかという気がする。

終了後に個人的にいろいろと考えてみたのだけど、EBM(医学系)との比
較で言えば、臨床の現場に相当するであろう図書館の現場での調査報告が
うまく共有できるしくみを考えない限り、それほどうまくは回らないので
はないかという気がする。医者の業界は臨床系・基礎研究系という切り分
けがあるわけではなく、その両者をこなす人たちをかかえていることが一
種の強みで、だからこそ、臨床症例の報告がエビデンスとして活用してい
けるのではないかという気はする。今回の研究大会でも、図書館からの実
践報告に近い内容はそれほど多く見られず、これらをどう増やしていくか、
検討の余地がありそうな気はしている。
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