テレビ、ラジオ、音楽など各業界の現場の方を対象としたインタビューと
対談から構成。
副題に「ポストYouTube時代のクリエイティビティ」とあるとおり、主な
話題はインタネット上での電子化が急速に普及した中で、現場の制作者が
どのような対応を迫られているかという話で、消費者・行政なども含めた
広い意味での利害関係者たちがどのようにそこに関わっているのかを議論
している。
また、単なる対談記録にとどまらず、その中で出てきた個別の用語や事象
についても大変詳しい説明を脚注として提供しており、コンテンツ業界で
のやりとりに用いられる用語や話題にさほど詳しくなくとも、理解を深め
ることができるよう配慮されている(きちんとまとめれば、コンテンツ・
ネットワークに関わる事典という形で一冊の本になりそうなほど…)。
対談全体を読むと、十把一絡にコンテンツ産業といっても、テレビ、ラジ
オ、音楽それぞれの業界の成り立ちや歴史的・文化的な背景が異なるため、
それぞれの業界毎の立ち位置が微妙に違う点がすけて見えてくる。
たとえば、テレビ業界は巨大な広告産業からの投資によって、インタネッ
ト上でのコンテンツ配信の動きには鈍感であったり、そもそも眼中になかっ
たりという立ち位置にある一方で、その隣にいるような立ち位置のラジオ
業界はテレビ業界に巨大広告は奪われた一方で、自由で先進的な取組みが
相対的にやりやすい位置におり、それらをインタネット上のポッドキャス
トやネットラジオと結び付けようとする動きもあるとのこと。音楽産業は、
レコード会社が大きな部分を占めることで、アーティストたちの横の連携
がうまくとれず、なかなか統一的な動きとして対応できないし、また、先
鋭的な活動をおこなっていても、インタネットそのものによる恩恵はそれ
ほど受ける必然性を感じていないし、むしろ、先鋭的な芸術の現場にいる
人たちほど、ネットワーク上の電子コンテンツとの関わりに対する意識は
薄いのではないかという議論はなかなか興味深かった。
また、いずれの業界にも関連する話題として「著作権」を議論の中で持ち
出しているものの、それぞれの業界毎の事情もあり、議論はあまり深まっ
ていない雰囲気を感じた。これはこれで現段階での貴重なまとめになりそ
うな感じではあるが。
コンテンツ政策行政に関わってきた中村伊知哉(慶応大学教授)が対談の
中で、今後のコンテンツ著作権の考え方として、「(技術的な流れが流動
的でコンテンツが多様化する)今後10年ほどは暫定的な合意を積み重ねて
いけばよい」という提言も挙げていたが、これは現実的なものに思う。
著作権に関しては、保護期間の延長、無許諾コンテンツダウンロードの違
法化といった課題が現実のものとして、政策決定が間近に迫られており、
つい先日にもニュースになったばかりで、今日、著者の津田、小寺は、そ
れらの法制化に反対する活動として「Movements for Internet Active
Users (MIAU)」なる団体を設立した模様。 cf.
http://miau.jp/
今後のコンセンサス形成の過程と、著者らの実質的な活動にも注視してい
きたい。