学歴社会が社会に及ぼしている影響を計量社会学の手法で解説。
筆者は社会学の立場から「学歴」が現代日本社会にどのような影響を与え
る要因となっているかを、おもに社会意識調査による膨大な経年データを
元に分析している。特に、「学歴」を否定するのでも肯定するのでもなく、
ひたすらその相関分析、要因分析として、客観的な分析につとめている。
その上で、現代日本を戦後期からの高学歴化の波が落ち着き、親子世代間
での平均学歴に差がなくなりつつある、「成熟学歴社会」に入った段階で
あるとして、その立場から旧来の学歴社会議論とも近年の格差社会議論か
らも、離れた分析とモデルを提供しようとしている。
分析結果としては、学歴化そのものが進行していた時点においては、学歴
そのものが持つ機能性が人々をより上層の高卒・大卒への導いていたもの
が、一定段階にいたった現在ではそれほど機能性が働かなくなり、別の要
因による学歴の膠着化が進んでいるらしいという分析を示している。
この中で、世代間での学歴の影響はそれなりにあり、親が大卒層の場合に
は子世代も大卒層、親世代が非大卒層の場合には子世代も非大卒へと導か
れやすいという傾向が出るなど、一種の世代間継承の様子を通して、合理
選択の結果としての、学歴下降回避モデルを提唱している。
また、社会階層が欧米ほど明確でない日本では、人々は学歴そのものを実
は一種の階層として取り扱っているのではないかという要因分析を行い、
社会意識の規定要因として、職業階層や世帯収入などと同じか、場合によっ
てはそれらよりもやや大きい要因として学歴が影響を与えているという分
析を示してもいる。
そもそも当方は日本の大学進学率の推移が50%程度で膠着化しているとい
う事実すら知らなかったので、なかなか興味深く読んだ。ただ、はじめに
想像していたよりも学術書として緻密な分析がそのまま述べられていて、
生データの統計的解析による比較検討を加えているため、社会計量学に素
養のない当方としてはその展開にややついていくのがおぼつかない部分も
あったのがやや残念。記述そのものは平易で随所に門外漢向けにも注釈を
加えているため、初心者でも論旨は追いやすいように思う。また、学歴そ
のものが社会的意識を規定している大きな要因となっているという主張も、
すんなり納得を得られやすく、いままで誰もこの点をついた研究をしてい
なかったのは、なぜだろうと思うほど。学歴中心主義として社会分析の一
モデルとなっていくのではないかなという気はした。ただし、ライブの現
代社会そのものを切り取ってきて分析を加えているわけではないので、本
当にこれらの分析が今後の傾向とも合致したものとなるかは不明。また、
社会意識調査で扱っていない項目についての分析もできないので、そういっ
た場合には分析手法そのものでもそれなりに補正をくわえる必要があるな
ど、この研究分野そのものの面白さと難しさを垣間見れたのもよかった。
あとは、著者も最後に述べていたとおり、現実社会へのフィードバックと
いう意味での制度論・政策論への展開は今後の課題だろうか。
読みながらなぜか、2001年に韓国旅行に行った際に、現地の方に聞いた話
を思いだした。彼によれば、韓国でも学歴社会は強いのだけど、男性は徴
兵があって同じ学年の人だとしても大学入学がずれたり卒業はもっとずれ
たりするので、他の人に学年を聞くときには、まず高校卒業の年を聞くと
言っていた。そういった素朴な同世代意識とか、学歴意識というものは日
本のそれとかなり似ているのだろうけど、そんな社会背景や制度の影響も
あったりして、分析はなかなか面倒そうだなあという印象も受けた。