「UFO神話」の形成過程を丹念にまとめたもの。
第2次大戦後、奇妙な飛行物体の目撃から始まり、飛行機等の既知の物体
とは異なる動作をしているのではないかという予断から、UFO=「異星人に
よる乗り物」ではないかというストーリーが徐々に形成され、それに影響
されて、新たなストーリーが想像されていく過程を一種の神話としてとら
えてまとめている。
著者は飛行学史を専門とする作家だそうで、UFOとはあまり関連しない分
野で活動していたそうだが、本書では年代ごとにUFO目撃談や著名な事件
をひとつずつ描いている。
初期には単なる目撃談だったものを広範に調査した結果、なんらの異質性
は確認できないとの結論が出ているにもかかわらず、冷戦当時の防空機密
との関連から全ての情報が公開されなかったため、その間に憶測や捏造行
為によって、多くのUFO事象が作り上げられたとのこと。
それと並行して、テレビや映画、ラジオを通じて、事件の構図やシナリオ
が共有されていくと目撃談やストーリーが少しずつ明確になってくるとい
う神話の再帰的な生産の過程がよく分かる。
また、いったん包括的な報告が行なわれたとしても、やベトナム戦争以降
の政府への見方など、多くの要因がからんで、陰謀論やカルト的な動きに
よって、結局UFO神話がながらえてきたという結果も興味深い。
さらに、20年・30年を経て、発生直後に否定されていた事件・目撃談が、
なんども言及されることで再生していく過程など、神話とのモチーフとし
ても面白い。
私自身、小学校時代にはオカルトブームがあり、UFO関連の書籍やテレビ
番組を多く見た記憶があるが、それらはすでに陰謀論がUFO事象の中でも
大きな存在となっていたものであった。神話の形成過程を見ても、目撃談
の相当部分は映画やテレビ番組、SFなどの影響を受けているし、実体験と
してもそう言えなくもないかなという感を強くもち、UFO事象そのものが
メディアリテラシーの良い題材なのかなと思った。
しかしもう一方で、このような神話はいつの時代も作られうる可能性があ
り、神話がつくられてしまうことそのものは止めようがないのだろうなと
も思った。
ひとつだけ難点をいえば、UFO事象そのものとその調査活動などのUFO活動
家などとの関連を詳細に描いている分、当時の社会的な雰囲気が「UFO神
話」を産んでいったという結論の部分に至るための説明、描写がやや弱い。
逆に言えば、このあたりをどう見るかは読者にその判断をゆだねている部
分なのかもしれないとも感じた。また、米国以外の状況はほとんど出てこ
ないので、これをそのまま日本などに適用してよいのかは疑問。同様の書
を日本の状況に照らして書いてくれるひとがいないかなーとか思う。
あとそもそも、なんでUFO神話は第2次大戦後から始まっているの?という
疑問には答えなくてもいいのだろうか。