高松塚古墳壁画の発見から解体修理に至る道程を描いている。
高松塚古墳壁画については、カビ発生による劣化報道から文化庁による隠
蔽報道へと、センショーナルな報道が続き、原因と結果についての報告を
十分に見た記憶がなかったので、壁画の発見からさかのぼって、その保存
に関わる歴史をひととおりなぞっているのが有益だった。
発見から現在の解体へといたる道のりそのものをふりかえることで、壁画
や古墳そのものに起因する問題と、外的要因(文化庁内の引き継ぎの甘さ、
壁画と史跡とのギャップ、現地体制の不備、保存科学と考古学のギャップ、
世代断絶の壁、人材育成の難しさなど)との重層的な原因が壁画の劣化を
早めたことが読みとれた。
とりわけ、劣化を防ぐことそのものの本質的な難しさと保存科学の重要性
とに力点を置いた記述に、単なる責任追求とは一線を画したいという著者
の意気込みを感じた。
ただやはり、官僚組織の無責任体制については、ありがちなことのように
も見えるが、まったく同情はできないという悲しさ…。
あと、壁画発見当時の様子を知らない者としては、「壁画発見が国民に与
えた感動」と言われても困る…という気はした。。。
(それは団塊の世代だけの感傷なのでは? これも世代の断絶か??)