Wikipedia参加者の動機は何かという疑問について、調査報告と論考。
・書誌情報:
Oded Nov: What motivates Wikipedians?. Communications of ACM,
Vol.50, No.11, 2007, pp.60-64.
doi:10.1145/1297797.1297798]]
・概要:
User-generated contentの代表格となったWikipediaの参加者にその動機
を問う調査を行った報告。
質問調査は、既存のボランティア参加などの調査研究で扱われてきた6つ
の動機: Protective, Values, Career, Social, Understanding,
Enhancementに加え、オープンソース活動参加者の調査研究における2動機:
Fun, Ideology の8つの観点から設計。
調査対象者は「Alphabetical List of Wikipedians」ページに記載されて
いる2,847ユーザのなかからサンプル抽出した370人で、うち151ユーザか
ら回答があった(回答率40.8%)。回答者のうち平均30.9歳、ウィキペディ
ア参加年数は平均2.3年。男性が140名と圧倒的(92.7%)。
動機として 7-point scale の平均得点が高かったものは以下の順(表2):
([]内は contribution(編集回数?)との相関計数)
Fun 6.10 [0.322***]
Ideology 5.59 [0.110]
Values 3.96 [0.175*]
Understanding 3.92 [0.296***]
Enhancement 2.97 [0.313***]
Protective 1/97 [0.306***]
Career 1.67 [0.185*]
Social 1.51 [0.027]
明らかに Fun/Ideology の2つが動機として高いのがよく分かる。ただし、
Ideology の方は編集と相関しないのが特徴。
・感想:
こういった類の報告がちょうど読みたかったので、良かった。
ただ筆者も言っているように、巨大なユーザベースを持つ英語版のユーザ
の中から、「Wikipedia:Alphabetical list of Wikipedians」に名前を加
えているユーザのみを調査対象にしたものであり、このリストが人手編集
でおこなわれていたことを考えると、かなり特殊なユーザ層になっていな
いか疑問。回答者も男性に偏っているなど、サンプルに相当のバイアスが
生じていて、一般論として結論を言えるかはかなり微妙な気もする。。。
…というか、当該ウィキペディアン一覧は、2006年11月には削除されて、
現在は[[Category:Wikipediansに移行している模様。(調査日付も書いてないしなあ…)
cf.
http://en.wikipedia.org/wiki/Wikipedia:Miscellany_for_deletion/Wikipedia:Alphabetical_list_of_Wikipedians
あと、相関統計の対象が contribution となっていて、おそらく編集回数
を指しているのだろうけど、編集の「質」の方を取り扱っていないように
見えるのも気になる。雑草取り屋なのか長文執筆者なのかによって、大き
な差があると思うので…。あと、参加分野の偏りとかも…。
そういった基本的なところで致命的なので、調査そのものの価値はそんな
に高くないのじゃないかと思う。あまり参考にならなそう。
期待して読んだ分、ちょっとだけがっかり。
ただ、調査の際の基準などがきちんと書かれており、そういった基本的な
点では参考になりそう。
このレベルで良いなら、単純に日本語版で追試するだけでも面白そう。
私個人の動機を並べるとしたら、Understanding > Ideology > Fun とい
う感じになるかな…。