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book - まさおのChangeLogメモ

2007-11-19 Mon

* ヒトは食べられて進化した [book]

初期人類の進化圧は狩猟行動ではなく、捕食されるという事実によるもの
の方が大きかったとの主張。

従来の定説となっていた狩猟行動に進化の原因を求める「Man the Hunter」
説を否定し、その逆で、捕食者に対する適応行動こそがヒトを「Man the
Hunted」として進化させたのではないかという説を、想定しうる捕食者の
生態や、初期人類化石に残る被食の跡、現生霊長類の行動とにもとづいて
論証していた。

ヒョウとか猛禽類の一種など捕食者の立場から見れば、人類はお手頃な食
べ物だったというのは、言われてみれば当然のことではあるけど、あらた
めて言われるまでなぜだか忘れてしまう事実かも…。
ということで、大変面白く読んだ。

あと、「Man the Hunter」仮説がキリスト教的原罪に由来しているという
のも、西洋流の教養という話題で興味深かった。

ちょっと気になったのは、やや唐突にブッシュ政権への皮肉やジェンダー
論の展開などが混じる点。このあたりは一般書向けということでエッセイ
風に加わっていて、全体の展開とあわせて整理されていればなあと思った。

あと、注釈・参照文献を本に付けずにWeb上だけに置くのは勘弁。書籍と
しての価値を半減するので、やめてほしい。
cf. 化学同人のサイト上にある注・参照文献:
http://www.kagakudojin.co.jp/library/ISBN978-4-7598-1082-0.htm

2007-11-16 Fri

* 環境問題をあおってはいけない [book]

徹底したコスト比較を全面に出した環境問題へのアプローチを論じた本。

いわゆる環境ロビー団体の主張に真っ向から反論する内容で、主題もエネ
ルギー資源枯渇、水問題、食料危機、地球温暖化、農薬と幅広い。

本業は経済学者のようで、その観点から、環境問題に対してはコストを度
外視した政策がとられてはいないかという点に注力した主張を繰り広げて
いる。

幅広い内容で大部の主張をくりひろげつつも、参照文献で一次資料を紹介
しながらの記載なので、それなりに説得力はある。ただし、紙幅の都合か
らか、参照文献の正確な書誌情報そのものはWeb上で提供する形を取って
いるので、そういった配慮もあまり関係なくなっているのは残念だが…。
cf. 出版社のサポートページ: http://www.bunshun.co.jp/se/
cf. 訳者によるサポートページ: http://cruel.org/kankyou/

筆者が前半で述べている人類の明るい未来像は斬新で大変興味深く感じた。

ただし本書の記述は、環境ロビー団体が巨大な影響力を保持している欧米
を前提としていると思われ、それほどの力を持ちえていない日本とでは、
本書の意味合いも変わってきそうな気がするし、ある意味では、欧米の環
境団体の影響力を中和する目的で記載したものだとおもうので、あまり日
本の現状に対しては参考にならない雰囲気も感じる。

また、経済合理性からの視点での環境問題へのアプローチは、日頃の日常
的なレベルから捉えるのとは相当に違う観点なのではという気もする。局
所的・個別的な問題へはこの方向からではアプローチできないと思うので、
別の視点の提示が必要そうという気がする。

さらにそもそも、そういった合理性を人間が実現しうるのかについては、
やや限界を感じなくもない。逆にいえば、著者の主張はそれだけの論理整
合性・合理性を信じうる欧米特有の空気に独特なものではないかという気
がしなくもない。

2007-11-12 Mon

* 笑いの方程式 [book]

既存の笑いを批評、類型化する試み。

著者は元々は芸能批評の専門家ではなく、大学の教養授業の中で、漫才や
コントといったお笑いネタに内在される構造を取り上げ、それが人を笑わ
せることにどのように寄与しているかを説明しようとつとめている。ある
あるネタからシュールネタまで、ひろい範囲の笑いの構造を取り上げてい
る。

2000年付近からのいわゆる「お笑いブーム」の中で見られたネタを批評し
ている。現代社会で次々と消費されているお笑いのネタや構造をスナップ
ショットとして書き起こした役割は大きいように思う(それを意図した訳
ではないだろうけど)。

本筋とは関係なく一点だけ気になったのは、ネタの引用元としてウィキペ
ディアの記事を利用していたところが何箇所か見受けられたこと。他にネ
タ元の分析データを得られなかった苦肉の策かもしれないが、相当に違和
感がある…。

2007-11-09 Fri

* ネットで人生、変わりましたか? [book]

ITmediaの有名女性記者による執筆記事を集めた本。

記者によるITの技術的側面にとどまらず、取材対象者の人生や生活をITが
変えていく様を描くことに注力した記事を届けてきた様子をふりかえる。

単に技術解説するだけでなく、それをどのようにQuality of Lifeにより
よい方向として取り入れていくかについては、ジャーナリズムが持つべき
本質的機能なんだろうなあと気付かされた。まあ、企画そのものは、彼女
だけでなく、それを周りで支えてきたとおもわれるライターや上司の心意
気がすけてみえるのがよい感じ。

そういう意味では、ネタ記事がまじっているのもどうかとおもうが、これ
が彼女の人気を決定づけた記事なので、しょうがないかという気もしない
でもない。。。こういった部分からどう脱皮していくのかという出口戦略
が必要なのかなという気もする。
# 釈迦に説法かしら…。

2007-11-09 Fri

* 最高学府はバカだらけ [book]

少子化をむかえて様相を変えつつある、大学および大学生の「バカ」な事
象にツッコミを入れ、大学改革へ向けての提言を行っている。

内容はそれほど突飛ではないが、全体の文調が悪ノリに過ぎるように読め
てしまい、マジメに読む気を削ぐのが難点。

一点気になったのは、受験産業と就職活動という大学の入口と出口に絞っ
た話題の展開がされているが、産業の大きさからそこに着目するのはよい
としても、大学の内実をブラックボックスとして見てしまい、本質を捉え
ていないのではないかという印象もある。筆者が「化学反応」と呼ぶ本質
の部分をもうすこし突き詰めて考えるべきではないかと思った。作者自身
「おバカな大学関係者」に毒されて、うわっつらしか見えていないのでは
ないかとの危惧も覚える(ミイラ取りがミイラに…)。

なお、一章分を割いたフィクションの記述は、読者をバカにしているよう
で不快。この形で入れる必然性は無いように思われ、著者および編集サイ
ドの意図はよく分からない…。

2007-11-06 Tue

* 心と遺伝子 [book]

分子遺伝学にもとづく行動科学の解説書。

性行動、食欲、子育て、睡眠などのヒトの行動を分子レベルまでさかのぼっ
て、どのようなゲノム、タンパク構造がこれに関連しているか、その要因
を解説している。

ヒトの行動そのものよりは分子遺伝学の解説として書かれているため、化
学物質名、タンパク質名が頻出して内容を追うのがちょっと大変だった。
新書ではあるものの、前提知識のレベルはやや高めの設定のように感じた。
概説書などの紹介があるとよいかなとおもった。

また、ヒトの行動を念頭に置いて書かれてはいるものの、もろもろの制約
により、ショウジョウバエ、線虫、ラットといった実験動物における知見
が書かれていて、人間行動へは解説は、ゲノム・分子レベルでの類似性か
らの敷衍となっている。人間行動に対するズバリな解説とはなっていない
点にも注意が必要かも…。
このあたり、人間行動によりフォーカスした話については、以前読んだ
「進化と人間行動」の方がずっと広い見地から書かれていたので、そちら
を読んだ方が良いのかも。 cf. Amazon:4130120328

全体の印象として、取り上げているトピックもやや散漫で、ハッキリして
いなかったのが残念。

2007-11-03 Sat

* 高松塚古墳は守れるか [book]

高松塚古墳壁画の発見から解体修理に至る道程を描いている。

高松塚古墳壁画については、カビ発生による劣化報道から文化庁による隠
蔽報道へと、センショーナルな報道が続き、原因と結果についての報告を
十分に見た記憶がなかったので、壁画の発見からさかのぼって、その保存
に関わる歴史をひととおりなぞっているのが有益だった。

発見から現在の解体へといたる道のりそのものをふりかえることで、壁画
や古墳そのものに起因する問題と、外的要因(文化庁内の引き継ぎの甘さ、
壁画と史跡とのギャップ、現地体制の不備、保存科学と考古学のギャップ、
世代断絶の壁、人材育成の難しさなど)との重層的な原因が壁画の劣化を
早めたことが読みとれた。

とりわけ、劣化を防ぐことそのものの本質的な難しさと保存科学の重要性
とに力点を置いた記述に、単なる責任追求とは一線を画したいという著者
の意気込みを感じた。

ただやはり、官僚組織の無責任体制については、ありがちなことのように
も見えるが、まったく同情はできないという悲しさ…。
あと、壁画発見当時の様子を知らない者としては、「壁画発見が国民に与
えた感動」と言われても困る…という気はした。。。
(それは団塊の世代だけの感傷なのでは? これも世代の断絶か??)

2007-10-28 Sun

* らも [book]

2004年に亡くなった作家中島らもの妻が書いた回顧録。

ちなみに、タイトルは「らも」となっているが、中島らもの半生を振り返
るというよりは、その妻から見ての半生記なので、主人公は著者自身となっ
ている。

かなりぶっとんだ半生をそのまま振り返っている。

クリエイティブな才能の発露と煙草、酒、女、クスリとの関わりについて、
ぶっちゃけた内容。まさに「遅れてきたLove&Peace」といった印象を抱い
た。
興味深い時代の証言ではあるが…。

個人的には、高校の時分に「ガダラの豚」を読んだかなという記憶がかすか
にあるくらいで、中島らもの作品そのものをさほど読んだ記憶がないので、
いまひとつ内容に実感がわいていない。
中島らもの読者層に向けて書いていると思われる記述も多々見られるので、
そのあたりは完全にスルー。。。

2007-10-25 Thu

* 学歴と格差・不平等 [book]

学歴社会が社会に及ぼしている影響を計量社会学の手法で解説。

筆者は社会学の立場から「学歴」が現代日本社会にどのような影響を与え
る要因となっているかを、おもに社会意識調査による膨大な経年データを
元に分析している。特に、「学歴」を否定するのでも肯定するのでもなく、
ひたすらその相関分析、要因分析として、客観的な分析につとめている。

その上で、現代日本を戦後期からの高学歴化の波が落ち着き、親子世代間
での平均学歴に差がなくなりつつある、「成熟学歴社会」に入った段階で
あるとして、その立場から旧来の学歴社会議論とも近年の格差社会議論か
らも、離れた分析とモデルを提供しようとしている。

分析結果としては、学歴化そのものが進行していた時点においては、学歴
そのものが持つ機能性が人々をより上層の高卒・大卒への導いていたもの
が、一定段階にいたった現在ではそれほど機能性が働かなくなり、別の要
因による学歴の膠着化が進んでいるらしいという分析を示している。
この中で、世代間での学歴の影響はそれなりにあり、親が大卒層の場合に
は子世代も大卒層、親世代が非大卒層の場合には子世代も非大卒へと導か
れやすいという傾向が出るなど、一種の世代間継承の様子を通して、合理
選択の結果としての、学歴下降回避モデルを提唱している。
また、社会階層が欧米ほど明確でない日本では、人々は学歴そのものを実
は一種の階層として取り扱っているのではないかという要因分析を行い、
社会意識の規定要因として、職業階層や世帯収入などと同じか、場合によっ
てはそれらよりもやや大きい要因として学歴が影響を与えているという分
析を示してもいる。

そもそも当方は日本の大学進学率の推移が50%程度で膠着化しているとい
う事実すら知らなかったので、なかなか興味深く読んだ。ただ、はじめに
想像していたよりも学術書として緻密な分析がそのまま述べられていて、
生データの統計的解析による比較検討を加えているため、社会計量学に素
養のない当方としてはその展開にややついていくのがおぼつかない部分も
あったのがやや残念。記述そのものは平易で随所に門外漢向けにも注釈を
加えているため、初心者でも論旨は追いやすいように思う。また、学歴そ
のものが社会的意識を規定している大きな要因となっているという主張も、
すんなり納得を得られやすく、いままで誰もこの点をついた研究をしてい
なかったのは、なぜだろうと思うほど。学歴中心主義として社会分析の一
モデルとなっていくのではないかなという気はした。ただし、ライブの現
代社会そのものを切り取ってきて分析を加えているわけではないので、本
当にこれらの分析が今後の傾向とも合致したものとなるかは不明。また、
社会意識調査で扱っていない項目についての分析もできないので、そういっ
た場合には分析手法そのものでもそれなりに補正をくわえる必要があるな
ど、この研究分野そのものの面白さと難しさを垣間見れたのもよかった。
あとは、著者も最後に述べていたとおり、現実社会へのフィードバックと
いう意味での制度論・政策論への展開は今後の課題だろうか。

読みながらなぜか、2001年に韓国旅行に行った際に、現地の方に聞いた話
を思いだした。彼によれば、韓国でも学歴社会は強いのだけど、男性は徴
兵があって同じ学年の人だとしても大学入学がずれたり卒業はもっとずれ
たりするので、他の人に学年を聞くときには、まず高校卒業の年を聞くと
言っていた。そういった素朴な同世代意識とか、学歴意識というものは日
本のそれとかなり似ているのだろうけど、そんな社会背景や制度の影響も
あったりして、分析はなかなか面倒そうだなあという印象も受けた。

2007-10-24 Wed

* 人類はなぜUFOと遭遇するのか [book]

「UFO神話」の形成過程を丹念にまとめたもの。

第2次大戦後、奇妙な飛行物体の目撃から始まり、飛行機等の既知の物体
とは異なる動作をしているのではないかという予断から、UFO=「異星人に
よる乗り物」ではないかというストーリーが徐々に形成され、それに影響
されて、新たなストーリーが想像されていく過程を一種の神話としてとら
えてまとめている。

著者は飛行学史を専門とする作家だそうで、UFOとはあまり関連しない分
野で活動していたそうだが、本書では年代ごとにUFO目撃談や著名な事件
をひとつずつ描いている。

初期には単なる目撃談だったものを広範に調査した結果、なんらの異質性
は確認できないとの結論が出ているにもかかわらず、冷戦当時の防空機密
との関連から全ての情報が公開されなかったため、その間に憶測や捏造行
為によって、多くのUFO事象が作り上げられたとのこと。
それと並行して、テレビや映画、ラジオを通じて、事件の構図やシナリオ
が共有されていくと目撃談やストーリーが少しずつ明確になってくるとい
う神話の再帰的な生産の過程がよく分かる。
また、いったん包括的な報告が行なわれたとしても、やベトナム戦争以降
の政府への見方など、多くの要因がからんで、陰謀論やカルト的な動きに
よって、結局UFO神話がながらえてきたという結果も興味深い。
さらに、20年・30年を経て、発生直後に否定されていた事件・目撃談が、
なんども言及されることで再生していく過程など、神話とのモチーフとし
ても面白い。

私自身、小学校時代にはオカルトブームがあり、UFO関連の書籍やテレビ
番組を多く見た記憶があるが、それらはすでに陰謀論がUFO事象の中でも
大きな存在となっていたものであった。神話の形成過程を見ても、目撃談
の相当部分は映画やテレビ番組、SFなどの影響を受けているし、実体験と
してもそう言えなくもないかなという感を強くもち、UFO事象そのものが
メディアリテラシーの良い題材なのかなと思った。
しかしもう一方で、このような神話はいつの時代も作られうる可能性があ
り、神話がつくられてしまうことそのものは止めようがないのだろうなと
も思った。

ひとつだけ難点をいえば、UFO事象そのものとその調査活動などのUFO活動
家などとの関連を詳細に描いている分、当時の社会的な雰囲気が「UFO神
話」を産んでいったという結論の部分に至るための説明、描写がやや弱い。
逆に言えば、このあたりをどう見るかは読者にその判断をゆだねている部
分なのかもしれないとも感じた。また、米国以外の状況はほとんど出てこ
ないので、これをそのまま日本などに適用してよいのかは疑問。同様の書
を日本の状況に照らして書いてくれるひとがいないかなーとか思う。

あとそもそも、なんでUFO神話は第2次大戦後から始まっているの?という
疑問には答えなくてもいいのだろうか。

2007-10-22 Mon

* りんごは赤じゃない [book]

公立中学校の美術教師による教育法を追った物語。

全く知らなかったのだが、徹底したスケッチによる基礎教育と調べ物学習
とを組み合わせた授業で高い成果を上げたとして、注目をあびたものらし
い。

特に、調べ物学習の導き方が興味深かった。これは着眼点さえしっかりで
きれば、観察、調査、描写といった活動がいつでもどこでも場所を問わず
に行えるという美術教科ならではの良さを活かした教育なのかなという感。

ただし、教育法そのものの記述というよりは、教師の教育への姿勢や意気
込み、集団指導の手法の方が主体となった記述のように思う。あと、やや
文体が情緒的で大袈裟な描写が気になる部分も多いと思った。

2007-10-19 Fri

* 仕事で燃えつきないために [book]

「燃えつき」症候群とその回避のための解説書。

「対人援助職のメンタルヘルスケア」と副題にあり、福祉・介護といった
分野で頻発するもえつき症候群への対応を主目的としたもののようだが、
職種を限定した話題はそれほど多くなく、むしろ、他の職種であっても、
他者との対人コミュニケーションを多く必要とする業種の多くに適用でき
る内容のように思える。

チェックリスト付きで全134ページと短く、内容もとても平易でやわらか
い文体で解説しているので、燃えつきに近い症状を感じたり、回りにそれ
に類する症状が見られる環境にある人がさっと読めて対応を考える材料と
するためにはとても良い本だとおもう。

2007-10-19 Fri

* 消費者理解のための心理学 [book]

消費者行動研究の概説書。

しばらく前に「なぜこの店で買ってしまうのか」を読んでから、購買行動
の研究に興味を持ったので読んでみた。
cf. Amazon:4152083352

既存の研究を購買行動、消費行動、外的要因との関連などの諸要素に分け、
広く解説している。

消費後行動などあてはまらないものはおいておくとしても、購買行動研究
は現在のWeb上でのページ閲覧行動や、サービス利用行動と相当に似た要
素を強く持つものであると思うので、消費行動としての心理学的側面から
の分析の既往研究の中には、こちら側での研究に使えるツールや理論が相
当に含まれていそうだという感をあらためて強くした。

また、本書中でも購買前行動の一つとしてではあるものの、情報探索行動
を大きく取り上げたうえで、そこで考えるべき視点をまとめている点は参
考になるし、意外なほど扱いが大きいような気がした。

一方で、1997年刊行ということはWeb普及黎明期にあたり、Web上での購買
行動といった新しい購買活動の研究については全く取りあげられていない
ので、その点のレビューについては他をあたる必要がある。
なお、通信販売等のやや類似した活動くらいは出てくるかとも思ったが、
特に扱われていなかった。

2007-10-18 Thu

* CONTENT'S FUTURE [book]

テレビ、ラジオ、音楽など各業界の現場の方を対象としたインタビューと
対談から構成。

副題に「ポストYouTube時代のクリエイティビティ」とあるとおり、主な
話題はインタネット上での電子化が急速に普及した中で、現場の制作者が
どのような対応を迫られているかという話で、消費者・行政なども含めた
広い意味での利害関係者たちがどのようにそこに関わっているのかを議論
している。
また、単なる対談記録にとどまらず、その中で出てきた個別の用語や事象
についても大変詳しい説明を脚注として提供しており、コンテンツ業界で
のやりとりに用いられる用語や話題にさほど詳しくなくとも、理解を深め
ることができるよう配慮されている(きちんとまとめれば、コンテンツ・
ネットワークに関わる事典という形で一冊の本になりそうなほど…)。

対談全体を読むと、十把一絡にコンテンツ産業といっても、テレビ、ラジ
オ、音楽それぞれの業界の成り立ちや歴史的・文化的な背景が異なるため、
それぞれの業界毎の立ち位置が微妙に違う点がすけて見えてくる。
たとえば、テレビ業界は巨大な広告産業からの投資によって、インタネッ
ト上でのコンテンツ配信の動きには鈍感であったり、そもそも眼中になかっ
たりという立ち位置にある一方で、その隣にいるような立ち位置のラジオ
業界はテレビ業界に巨大広告は奪われた一方で、自由で先進的な取組みが
相対的にやりやすい位置におり、それらをインタネット上のポッドキャス
トやネットラジオと結び付けようとする動きもあるとのこと。音楽産業は、
レコード会社が大きな部分を占めることで、アーティストたちの横の連携
がうまくとれず、なかなか統一的な動きとして対応できないし、また、先
鋭的な活動をおこなっていても、インタネットそのものによる恩恵はそれ
ほど受ける必然性を感じていないし、むしろ、先鋭的な芸術の現場にいる
人たちほど、ネットワーク上の電子コンテンツとの関わりに対する意識は
薄いのではないかという議論はなかなか興味深かった。

また、いずれの業界にも関連する話題として「著作権」を議論の中で持ち
出しているものの、それぞれの業界毎の事情もあり、議論はあまり深まっ
ていない雰囲気を感じた。これはこれで現段階での貴重なまとめになりそ
うな感じではあるが。

コンテンツ政策行政に関わってきた中村伊知哉(慶応大学教授)が対談の
中で、今後のコンテンツ著作権の考え方として、「(技術的な流れが流動
的でコンテンツが多様化する)今後10年ほどは暫定的な合意を積み重ねて
いけばよい」という提言も挙げていたが、これは現実的なものに思う。
著作権に関しては、保護期間の延長、無許諾コンテンツダウンロードの違
法化といった課題が現実のものとして、政策決定が間近に迫られており、
つい先日にもニュースになったばかりで、今日、著者の津田、小寺は、そ
れらの法制化に反対する活動として「Movements for Internet Active
Users (MIAU)」なる団体を設立した模様。 cf. http://miau.jp/
今後のコンセンサス形成の過程と、著者らの実質的な活動にも注視してい
きたい。

2007-10-16 Tue

* 2ちゃんねるはなぜ潰れないのか? [book]

論評の難しい本だが、2ちゃんねるを長年運営している著者が思うことが
らが、多方面に渡って書いてあるエッセイ。

特に、インタネット上で展開されるサービスの現状と今後、社会との関連
といったことがらには、筆者独特の考え方と肝の座った論評がなされてい
る点で興味深い。しかし、口述筆記という文体上の特徴もあり、議論全体
はそれほど緻密なものとなっておらず、言いっぱなしという印象も受ける。
まあ、そのあたりがこの本と著者の魅力でもあるのだろうけど…。

その「いいかげんさ」を許容できるか否かが、この本の評価と直結しそう
な気はします。
ちなみに、私には合わないのだろうなあというのが正直な感想です…。

2007-10-11 Thu

* 暴走族のエスノグラフィー [book]

京都の暴走族に取材した結果から、暴走に興じる若者たちの実態を描くと
ともに、その背景にあるものを分析した好著。

1984年刊ともう23年前の出版だが、暴走族そのものがブームとなり、一番
活発に活動していたころの勢いも感じる。
世界的にもまれな日本の「暴走族」ムーブメントがどのようにして生まれ
たかを、以前のモーターサイクル族の歴史や、社会的イメージの醸成によ
る「演出」の影響を通じて描く。

ありがちな「受験競争からの落伍」「寂しさゆえの暴走」といった、一般
社会でありがちな分かりやすい解釈を排し、現場に即した暴走族論から、
暴走活動そのもの魅力と、マスメディアがムーブメントを劇場化・演出す
ることによって成立した類型化とその模倣という図式を描きながら、「魅
力-リスク」論や、「類型化と模倣」による様式化など、社会の中での立
ち位置の模索を分析している。

ただ、惜しむらくは、マクロな「暴走族とは何か」という疑問にこたえる
分析が主となっているため、暴走族との取材の過程のフィールドノートや、
個々の若者の活動を詳細に追うといったミクロなレベルのルポは、中心と
はなっていなかった。

2007-10-07 Sun

* イノベーションの達人! [book]

イノベーションを呼び起こすに足る人材を10種の人材として類型化し、そ
れぞれに「人類学者」「ハードル選手」「舞台装置家」など特徴的な命名
をほどこし、その役割を解説。

出てくる事例はどれも興味深いが、逆に、もう少しストーリーベースで話
を進めた方が読みやすいようにも思った。

2007-10-06 Sat

* 明文術 [book]

「理科系の作文技術」系の文章術入門。
小説等の「名文」を目指すものと対比させて、「明文」が必要とされる場
面、明文作成に必要とされる日本語作文技術を解説し、ルールとしてまと
めている。

例示されている文章による説明が分かりやすく、演習も付いているので、
良い練習になりそうかなとおもう。

2007-10-01 Mon

* ワーキングプア [book]

主にワーキングプア発生の原因やその実態を労働統計をまじえた解説した
本文と、個別のワーキングプア層への取材をまとめたコラム部分とで構成
されている。

解説の方はやや情緒に走りすぎているきらいがあり、読みとりが難しい。
もう少し抑えた文体で淡々と解説してくれたほうがよいのではないかとお
もう。

一方、取材記録にもとづく個別事例のコラム部分の方は、いくつもの事例
が当事者へのインタビュー肉声やワーキングプアに陥った経緯を中心に述
べられており、興味深い。こちらを主体に書かれた方が良かったのかも…。
Referrer (Inside): [2008-07-08-2]

2007-09-16 Sun

* 子どもたちのアイデンティティー・ポリティックス [book]

小学校学級におけるブラジル系児童を描いたエスノグラフィ。
たまたま図書館で見かけて気になったので読んでみたのだけど、結論から
言えば、2007年最高の一冊だろうと思う。

筆者はおよそ3年間、小学校高学年のブラジル系移民の児童の様子を中心
に、小学校内の主に日本語教育特殊学級にはいって観察し、その報告とし
て、多くの児童から構成されるクラスそのものの社会性を丹念に描いてい
る。

小学校内部での教師および児童の総体によって成り立っている学級運営、
クラス内での個々の児童の立ち位置、ブラジル系児童に代表されるマイノ
リティの立ち位置、それらを総合的に描き出すことに成功しているように
思う。

私自身、小学校時代ははるかかなたになりつつあるが、記憶の片隅にある
日本の小学校学級そのものが持つ攻撃性が、透けてみてくるような迫真の
描写と、現場の説得力に衝撃を受けた。

子どもたちは受動的な存在ではなく、他者との関わりの中で多くを学ぶと
ともに、その立ち位置の中で自身のアイデンティティを発見し、発掘して
いくということがよく分かる。また同時に、参与観察者としての著者本人
の振舞いの難しさと、その立ち位置も問われていることもよく分かる。

なによりも現場そのものの描写が秀逸だが、現場の描写から導かれたまと
めとして、最後には移民系児童への教育環境の改善に向けた提言も挙げら
れており、それらも説得力あるものとなっている。