http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsik/kenkyu.html
今年は実家の法事と重なってしまったため、初日金曜日のみの出席。
最後のセッションとして、パネルディスカッションが設けられ、「Web2.0
時代の情報システム」と題して、岡本さん、兼宗さんによる議論が行なれ
たが、いろいろと示唆に富んでいて、大変刺激的だった。
詳細はパネリストの岡本さんが既に御自身のブログに書かれているので、
そちらを見ていただければと思う。
http://d.hatena.ne.jp/arg/20070526/1180169144
パネルディスカッションでの話題提供の中で、岡本さんはサービスが社会
にもたらそうとする意義、そのVisionを持つことの大切さを説き、ユーザ
指向のサービスに注力するよう提言し、持論のデータ開放を先んじて行う
ことの重要性を述べた。一方、兼宗さんは技術者=「システムを作る人」
としての立場から、また、エンドユーザとなる将来の若者を育てようとす
る情報教育における立場から、ユーザ理解と技術者への支援、天才の発掘
を促す施策への提言を述べ、新しいアイデアの創出を促進したいと述べら
れた。
岡本さんが提言された「Vision」概念の提示は、ともすれば最新技術への
対応や運用、仕様提案といった実務上の課題が第一義になってしまう、情
報システムを取り巻く環境の中では置き去りにされがちな話題であり、そ
の中からもたらされる意義にこそフォーカスを当て、再度考えてみようと
する意義は想像以上にインパクトがあり、大きなものがあると感じた。ま
た、改めてそのことに思い巡らすことで、わくわくする感を持った。議論
そのものの価値を高めていたように思う。
情報科学を専攻する者はやはりこういった点を強く意識すべきなのだろう
なあと思いつつ。。。
岡本さんにまとめていただいたので補足も兼ねて…。
フロアからの話題提供も必要かなあと思い、やや枝葉の話題かとは思った
が、企業主導型のサービス提供のもたらす恩恵とともに考えなければなら
ないリスクとして、Google Web APIの登録停止の話を例に挙げて、それを
のりこえるためのモデルが無いだろうか考えていきたいという話をふって
みた。特にWikipediaを例にとってNon-profitな組織といった、営利企業・
公的機関の2者以外の第3の道がないだろうかといった話題をふってみたが、
幸い岡本さんからは実体験に基づいて、営利企業側からの社会貢献として
のサービス・コンテンツ提供という観点や、独立行政法人の組織改変に伴
なうサービス中止などの例や、Internet Archiveのブリュースター・ケー
ル氏を想起された解説などがあり、思わず膝を打つ解説で参考になった。
また、学協会からの発信も提言された。
あとで帰宅してから思い出したのは、岡本さんが別の箇所で例に挙げられ
ていたWebcatPlusを主導されている連想検索の高野先生こそ、新書マップ・
連想検索を切り口としたNPOを立ち上げて活躍されているということだっ
た…。 cf.
NPO法人連想出版
ARGを主宰する岡本さんの立場としてはやはり、「Vison」の話とも絡んで、
単なるアカデミックにおける立場を越えて、より積極的な社会への発信、
貢献を検討してべきという強いメッセージを受け取った。
また、これもあとから思った点だが、もっとシンプルに技術者的な視点か
ら考えると、Open source/Free softwareといった活動によって、「Vison」
を広め、情報提供していくことが、個人の立場からできる範囲の話になる
が、単なる組織論を越えられる方向性かなあと…。まあ、試行錯誤を続け
ていくしかないのかなあという面はあるが。
あと、時間が無くてコメントできなかった点を2つだけメモしておく。
2004年から1年ほど情報検索評価プロジェクトであるNTCIRの運営に関わっ
たが、その際に、やはり情報検索分野の研究においてはエンドユーザを意
識した研究こそが最も重要であると実感し、昨年度から国内共同研究とし
てIRCEプロジェクトを進めている。行中である。先週開催されたNTCIR-6
の併催ワークショップEVIA 2007ではその最初の成果発表を行った。
→
Takaku, et al. (EVIA 2007)
この周辺の研究領域については国際的な研究の場でも急速に注目を集めて
いるホットな話題であり、おそらく今年夏にアムステルダムで開催される
SIGIR 2007でも、この話題が主要な議題の一つに挙がるだろうと予想して
いる。これは、我々の共同研究にとってはライバルが多くなり、おそらく
まともに一線では戦うことは難しくなっていくであろうから、避けたい面
もある…。が、もし我々が新たな知見を得られなくとも、最先端の優秀な
研究者たちの手で今後数年のうちには、多くの側面が今後明らかになって
くるのではないかと予想する。できれば、検索エンジン等の先進的なサー
ビス提供を行っている企業各社は、手元で保有する利用者から得た情報、
フィードバックを詳細に分析したデータを報告してほしい。大規模なサー
ビスから得られた知見は必ずや次の先進的なアイデアを評価する土壌とし
て活用されるであろうから。そしてそれこそが新たなサービスを迅速に評
価し、次のアイデアへと次々に繋げていく前向きなサイクルを生むかもし
れないと期待する。
もう一点はNext-lと関係する話題だが「ユーザ」の範囲をどう定義するか
という問題。
例えば、図書館管理システムのエンドユーザには2種類いるのではないか。
一般的な意味での「エンドユーザ」(図書館利用者)と図書館員である。
裏方の作業をこなす情報システム(サービス)が賢くなれば、間接的にエ
ンドユーザへも恩恵がある。しかし、これらをいっしょくたにユーザと呼
んでしまうと、どちらに対するサービスを意図したものであるのか、よく
分からなくなってしまい、結果として、それらのサービスの本質もよく見
えなくなってしまうだろう。この話題はおそらくもう少しきちんとまとめ
た研究をされている方がいるとは思うので、あまりつっこめなかった…。
兼宗さんがおっしゃっていたようなUMLによる概観図などはこのためのツー
ルとなりうるだろうか…!?
なにはともあれ、話題提供いただいた、パネリストの岡本さん、兼宗さん、
司会の宇陀先生に感謝したい。